【2018年度ものづくり文化展】優秀賞受賞者インタビュー
2018.12.25
2018年度ものづくり文化展優秀賞受賞作品『射出成形機』
射出成形機とは、取り付けられた金型に溶融した樹脂を高圧で充填する機械のこと。日常目にするプラスチック用品のほとんどがこの射出成形機で作られている。本来、油にまみれた約850tもある巨大な機械が、1/48スケールというミニチュアサイズと、美しい真鍮製のボディで再現されている。実際の成形はできないものの、金型の開閉や型締め力の構造に、実物同様トグル式を採用するなど、金型設計士として実際の成形現場に従事する内田さんならではの細やかな視点が光る作品。
ほとんどの人がわからなくても、知ってる人がそっと「いいね」を押してくるものづくりをやっていければいいな、なんて思っています。
『射出成形機』制作者の内田 一彦さん
1961年生まれ、埼玉県出身、埼玉県在住。
自動車部品製造会社で金型設計を担当。
2017年度ものづくり文化展 入選。
――― ものづくりを始めた経緯について、聞かせてください。
元々、物を作ることは好きで日曜大工をやったりしていたんです。一度、自分でCNCを手作りしてみようと思ったことがあって、Amazonとかで売っているコントローラーをベースに、自作したコントローラーを使って作ったんですが、形はできたものの、摺動(しゅうどう)する部分とかはどうしても精度が良くなくて。完成品も、ものを削れるようなものではなく、鉛筆をくっつけて絵を描くことが精一杯という感じで(笑)。
やっぱり金属を扱う工作となると非常にハードルが高い。加工するとなると糸鋸で切って、やすりで仕上げて、という感じなので、形は作れても精度はでないんです。物足りなさを感じている中、オリジナルマインドさんのBT100を手に入れて、精度の良いものが簡単に作れるようになったんです。それがきっかけなので、本格的に始めたのはここ2、3年ですね。
――― 受賞作の制作の経緯について、教えてください。
BT100を買ったので、何か作って送りたいって思ったのがきっかけです。最初は『山車』を作って、それも去年のものづくり文化展に応募しました。『山車』の制作を終えて、なんとなくなにかもう1個作ろうと、『ミニチュア金型』を作ったんです。
実は、あの金型はそんなに時間をかけずに1週間くらいで作ったもので、しかも、普通の人が見たら何かわからないものなのに、そっちの方が入選しちゃってびっくりしました(笑)。こういうものづくりでも表彰してもらえるなら、もっと普通の人が知らないものを作ってみようかということで、せっかく金型があるなら、金型が収まる成形機を作ったら面白いかなと、今回の『射出成形機』を作りました。
あと、私は仕事で金型の設計をやっているので、皆さんにこういう金型で成形する機械があるということを知ってもらえればいいなと。
内田 一彦『山車』 材料には希少な黒檀材が使用されている。 作品詳細
内田 一彦『ミニチュア金型』 縦26ミリ 横40ミリ 高さ27ミリの小さな型の模型作品。型板からエジェクタープレート、吊りフック金具に至るまで細部にわたり再現され、その全てが美しい真鍮削り出しのパーツで制作されている。ものづくり文化展2017 入選作品。 作品詳細
――― 主な材料に真鍮を使用する理由はなんでしょう。
加工性がいいというのが一番の理由ですね。色々試して、アルミだと重量感が出なくて、ステンレスだと硬いんですよね。鉄も、よほどいい鉄を使わない限り硬度差でムラになるので、会社ではあまり使わない真鍮はどうなんだろうと思って加工したら、比較的切削性が良くて、すごく扱いやすい金属だったんです。磨くと綺麗なところも気に入って使っています。ただ、唯一の欠点はすぐにくすんでくるというところですね。1~2週間でくすんでしまいます。
――― 制作に際して重要視したことや留意したことは。
構造をなるべく実物に似せて作りました。型を動かす動力も本物同様トグル式にしてあります。唯一、失敗したところはトグル式にしたことで動作が遅くなってしまったことです。もっと性能の良いステッピングモーターを使えばよかったかなと思ってますね。
本物同様トグル式で再現された型の開閉機構。
――― 制作に際して苦労した点を教えてください。
成形機って図面がないんですよね。ネットを探しても、画像しか出てきませんし、結局トグル式の細かい原理はよくわからないままで、なんとなく絵を見ながら製図しました。設計が終われば、あとは機械がやってくれますから、他に苦労はなかったですね。
――― 受賞作を通して感じたことや学んだことはありますか?
本職で金型を設計しているので、成形機のことはなんとなくわかったつもりでいたんですけど、最終的にどういう風に型を締める力になっているのかとか、実際に作ってみるとよくわかっていない部分があるということを実感しました。
――― 今後どのようなものづくりに取り組んでいきたいですか?
人があまり作らないものがおもしろいなって思っていて、今は「ライブスチーム」(実物同様に蒸気を発生させ、動かすことが出来る模型の蒸気機関車)の制作にチャレンジしようと思っています。若い人であまりやってる方少ないですし、会社の人たちの話を聞いても、「ライブスチームはもっと年取ってからだよね」って(笑)。そんな風に言われるとやりたくなっちゃう(笑)。
あとは、汎用フライス盤とかそういう昔の工作機械を作ってみようかなと考えています。一応、XYZ軸は回すと動くようにしようと思ってはいるんですが、あくまでも加工する目的ではなくて、イミテーションとして作ろうかなと。
今のフライス盤って薄く、早く削るのが流行りなので、機械自体もスマートでかっこいいじゃないですか。でも、昔のフライス盤はゆっくりだけど、一気にごっそり削るのでごつくて、すごく重厚感と味があんです。そんな、ほとんどの人がわからなくても、知ってる人がそっと「いいね」を押してくるものづくりをやっていければいいな、なんて思っています(笑)。
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