【2017年度ものづくり文化展】aircord賞受賞者インタビュー
2017.12.27
2017年度ものづくり文化展aircord賞作品『Yunit5X RoboCupJunior2017 出場ロボット』
RoboCupJunior Soccer Open Leagueという競技に出場した自律サッカーロボット。ロボットには,競技ボールを検出するセンサの他に,自己位置推定のための超音波距離センサ,床の白線を検出するための光センサ,自分の姿勢を検出するためのジャイロセンサ,及びそれらを管轄しながらロボットにサッカーの動作をさせるようプログラムされたマイクロコントローラが搭載されている。
本当に世の中を変えられるロボットを作りたいと思っているんです。
『Yunit5X RoboCupJunior2017 出場ロボット』の作者の多田 有佑さん
1998年生まれ、東京都出身。
都立産業技術高等専門学校 電気電子工学コース4年生(2017.12.27現在)。
小学2年生の時にテレビで見た「NHK高専ロボコン」をきっかけにロボット製作を開始。芝浦工大ロボットセミナー、子供の理科離れを無くす会、川崎ロボット競技大会ジュニア部門などのロボット大会に参加。「関東ロボット練習会」ホビー二足歩行ロボットのコミュニティに参加して以降は、ロボゴング、ROBO-ONE、ROBOT-JAPAN等の大会に参加。
高等専門学校入学以降、RoboCupJunior Soccerに参加し、2015年国内大会準優勝、2015年世界総合5位、2017年国内ベストプレゼンテーション賞を受賞。
――― 今回受賞されたaircord賞のaircordさんは、有名なアーティストや、芸能人が出ているPVで使われている機材を作っている会社なのですが、見せ方のプロフェッショナルである彼らが、多田さんの作品を一番に選考しました。
まずは、このような賞をいただけたことを光栄に思います。ありがとうございます。
実は、僕は今回の受賞を通してaircordさんのことを知りました。僕は高専で工学を勉強していますが、見せ方やデザインなどを専門に勉強する機会はありませんでした。ただ僕自身、かっこいいロボットが好きだったので、何か作るときにはそれを目指して作るようにしていました。それが結果として評価していただけたのかなと思っています。
――― 受賞作の製作の経緯について、聞かせてください。
『Yunit5X』は、2017年度RoboCupJuniorのサッカーオープンリーグに出場するにあたって製作した競技ロボットです。この競技に出場するにあたっては、二人以上がチームを組んで出場する必要があります。僕のチームはこの年に、東京で活動する僕と香川県で活動するメンバー同士でチームを組む、という事に挑戦しました。国内大会や世界大会で上位の成績を持つ二人が組むことで、お互いの情報共有を狙った形です。
結果として、私達のチームは国内7位とベストプレゼンテーション賞を受賞することができました。大会成績としては満足いかなかったものの、お互いの技術情報を共有するという目的は大いに達せられました。
――― 受賞作製作の際に留意したことは。
壊れないように作ること、綺麗に作ること、新しい機能を毎年実装することの3点を心がけて作りました。ロボットを開発するにあたっては、ハードウェアを実際に動かす必要がありますが、その際には「動かす物が壊れない」ことが前提条件になります。特にRoboCupJuniorのサッカーは、ロボット同士が激しく衝突する競技で、瞬間的にはロボットを腰の位置から落下させるのとほぼ同じくらいの大きさの衝撃がかかります。そのためロボットには、それだけの衝撃に耐える瞬間的な耐久性と、長時間のプログラミング・調整に耐える持続的な耐久性の両方が求められるのです。
綺麗に作ることは、僕自身の「綺麗なロボットにしたい」という思いから来ています。基本的には「ロボットの外から見える位置にケーブルを通さない」ことに気をつけています。これによって、美しく見えるだけでなくシステムの安全性を高め、メンテナンスコストを下げる狙いもあります。
新しい機能を毎年実装することは、この『Yunit5X』に限らず続けてきたことです。僕はRoboCupJuniorに参加するにあたって、全く同じ構成のロボットを作ったことは一度もありません。新しいロボットを作る際には、必ず過去のシステムに対して何か一つ大きな変更を加えていました。もちろん、勝ち負けだけを優先するのであれば、本来はそういう事はするべきではないのですが、僕はこれを3年間続けた事で、最初の1年目からは想像もできないような技術を身につけることができました。
――― 以前、多田さんがプレゼンテーションをしている動画をお見かけしました。プレゼンテーションをする機会も多いのでしょうか?
そうですね。RoboCupJunior参加者の親御さんから話して欲しいと言われて。
――― どんな内容を話して欲しいと言われるんですか?
RoboCupJuniorは小学生から高校生まで幅広い年代が参加する競技ですから、技術的な内容よりは「どんなところに気をつけてロボットを作ったか」や「ロボットを作るための知識をどうやって勉強したか」など、主に考え方や方法についての話をしています。
――― やりがいは感じますか?
みんな一生懸命聞いてくれるので、とてもやりがいを感じます。僕はブログを書いているのですが、プレゼンをきっかけにブログへ訪問してくださる方も多いです。
僕がそうだったように、何かを始めたての人たちは、プログラムでもなんでも分からないことがあったらすぐにネットで検索すると思うんですけど、それで何かを知ることができるのは、過去に誰かが書いてくれているからです。だとしたら、いずれは自分が書く側になって、次の世代の人たちに情報を発信していきたい。恩返しという言葉がありますが、恩を返そうとした時にはもうその人は手が届かない存在だったりしますから、恩返しではなく「恩送り」のつもりでやっています。
――― 作品を美しく作ろうとする軸になっている気持ちはどこにあると感じますか?
元々僕はメカが本能的に好きで、小学生の頃はエンジンの構造などの本をずっと読んでいるような子どもでした。機械というと無骨なイメージがありますが、僕自身は、機械はスマートなものであるべきだと思っていて、見た目まで洗練された「美しいメカ」には非常に魅力を感じます。自分のロボットを設計するときにも、自分が魅力的だと思うものを作るようにしています。
――― よくiPhoneは目に触れない内側の設計までこだわっているといいますね。
そうですね。だからApple大好きです(笑)
――― 高等専門学校卒業後はどんな進路を希望していますか?2年前にお伺いした際は「ロボット博士を目指している」とお話しされていましたね。
目指している方向性自体は変わらないですね。ただ、やはり具体的な進路や仕事のことを考えないといけない時期になってきています。僕は今高専4年生で、5年卒業後は大学への編入などを考えないといけないのですが、勉強がそんなに得意じゃないんですよ。ただ、中には技術を評価して下さる学校もあるので、そこも視野に入れながら進路を検討しているところです。
将来的には、開発の仕事をしたいと思っています。本当に世の中を変えられるロボットを作りたいと思っているんです。でも、そのためにはまだまだ勉強が必要だなと思います。
――― 将来は、どんなロボットを作ってみたいですか?
僕の中では、ロボットは大きく分けて2つ、1つは"存在がどんどん消えていくもの"、もう一つは"存在がどんどん露わになっていくもの"です。消えて行く方は、究極的にはメガネのようなものだと思っています。例えば、誰もメガネをかけている人を障がい者とは呼びませんよね。将来ロボットがそんな存在になれたらと思うんです。アシストスーツを着ていることが、メガネを付けているくらいの感覚になるという事です。
そしてもう一つの、存在がどんどん露わになるロボットというのは、誰が見ても「ロボット」と思えるもの。テレビ、エアコン、冷蔵庫、と同じように、普通の家庭に置いてあるような存在に、ロボットがなるという事です。今、AIなどの情報技術がどんどん発達していますが、それらと人間を繋ぐツールが不足していると思います。将来ロボットが、そこを繋ぐ存在になるんじゃないかと思っています。
――― ヒューマノイドロボットのようなもですか?
ヒューマノイドも一つの形ですが、いろんな形があると思っています。例えば、音だけを鳴らすAIスピーカーも、人とAIを繋ぐ一つの形だと思うんです。ヒューマノイドにすると、どうしても人間と比較されてしてしまうので、不気味の谷などの問題が生じてしまいます。
僕が注目しているのは、人間の感受性を利用したロボットです。人間の感受性というのは、ものすごく強くて、例えば顔文字などの文字列からだけでも相手の顔や表情を想像することができます。そこを上手く引き出すようなロボットを作りたいと思っています。
その形を探るヒューマンロボットインタラクションという分野にすごく興味があって、今は石黒浩先生のいる大阪大学大学院を目指しています。ただ、世の中を変える方法は学術だけではないと思っています。例えばスティーブ・ジョブズは論文を出していないけど世界を変えちゃったじゃないですか。広い視野を持って、色々な可能性を捨てずにやっていけたらなと思っています。
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